「蒸留ベンチャー」エシカル・スピリッツ㈱が手がけるクラフトジンの蒸留所
先日、ときがわ町出身で、世界最高のバー50にランクインしたBen Fiddichのオーナーバーテンダー・鹿山博康さんと、蒸留ベンチャーであるエシカル・スピリッツ㈱さんとの共同で、世界初の”木のお酒”プロジェクト「WoodSpirits」がスタートしました。
鹿山さんがときがわ町出身ということで、その第1弾をときがわ町の木を使ってつくりたいということで、ときがわ町で製材を営むやまなおさんと、地域商社・ときがわ社中の栗原と私とで、「WoodSpirits」をサポートするときがわチーム「ときがわスピリッツ」(特別顧問は関根雅泰さん)を結成しました。
その活動の一環として、この日は”木のお酒”の蒸留を担うエシカル・スピリッツ㈱さんが7月6日にオープンした「東京リバーサイド蒸留所」を見学することになりました。
(鹿山さん、ご調整いただき、ありがとうございます!)
エシカル・スピリッツ㈱CEOの山本さん、COOの小野さんもご挨拶に出てきてくれました。
(お忙しいところありがとうございます!)
また、この日は浅草でどぶろくを作っている木花之醸造所の方々ともご一緒させていただきました。
東京リバーサイド蒸留所では、普段なら廃棄されてしまうような素材を使って、クラフトジンの蒸留を行っているそうです。
案内していただいたのは、エシカル・スピリッツ㈱CTOの山口歩夢さん。
この方、鹿山さんいわくお酒業界では「天才」と称されるほどの逸材だそうで、まだ24歳。
2時間弱という時間でしたが、ジンやお酒にかける情熱は並々ならぬものを感じました。
知識量もものすごくて、こういう方と一緒にしごとができるというのは幸せなことだと思います。
以下、見学の流れとともに、山口さんからお聞きした内容を書き留めています。
(私の乏しい知識によるものですので、正確性に欠ける部分もあるかもしれませんのでご留意ください)
つくる【1F 蒸留所】
・ジンの定義はあいまい。ジュニパーベリー(セイヨウネズ)を使った蒸留酒であること程度しか定まっていない
→ 原料として使うボタニカル(植物性のもの)によって組み合わせは無限大。工夫の余地が大きいのがおもしろくて、料理に似ている
・蒸留すればするほど、アルコール度数が高く、「きれいな」(純度が高い)お酒になるが、香りもとんでしまう
・蒸留機は中国製のものを利用。本格的なドイツ製と比べて、安価なのと支社が川崎にあり、修理の際に技師がすぐ来られる。ドイツ製のものだと、修理が必要になった際にドイツから技師を呼ばないといけない。
・原酒として、日本酒をつくったあとの酒粕を使った粕取り焼酎を使うことが主。ビールや日本酒を原酒に使うこともある
→ コロナで売れなくなったものを使ってOEMでつくった
→ ビールはアルコール度数が低いので、蒸留に手間がかかる
・粕取り焼酎を使ったジンは、日本酒のような香りがする
・日本には1200くらいの酒蔵があり、そこから大量の酒粕が出る
→ スーパーなどで売っている酒粕は粕問屋さんが酒蔵から有料で買ったものだが、ロットが大きく、大手の酒メーカーのように大量でないと扱えない
→ 小さな酒蔵の酒粕は、料理用などで再利用するものもあるが、ほとんどが有料で廃棄されている
・従来は廃棄される酒粕でつくった粕取り焼酎を原酒として使うことで、エシカルなお酒をつくるというのがコンセプト
・粕取り焼酎をつくれる酒蔵は全体の1割程度。今後は粕取り焼酎ではなく、酒粕から直接ジンをつくる製法にチャレンジしていく
・スパイスとして加えるボタニカルも、使い道がなく廃棄されていたものを積極的に使用している
→ カカオの皮、摘果したスダチ、ミョウガの茎、ショウガのこぶ、お茶の幹、干しシイタケの軸など
・蒸留過程で出る最初の成分や最後のカスのような部分もとっておくことで、「秘伝のタレ」のようなものとして利用することが可能(こってり系、さわやか系などバリエーションもある)
あじわう【2F Bar】
7種類のジンを試飲(私は飲めないため、香りのみで・・・)
①モデスト
・ジンマスターで最高金賞、ワールドジンアワードで銀賞、IWSC(ジンで一番大きな大会)で銅賞
・エレガントに比べると性格が穏やか
・代表的なシリーズ
②エレガント
・ピンクペッパー、ハイビスカスなどを使用
・ジンマスターで銀賞、ワールドジンアワード(コンテンポラリー部門)で日本一、IWSCで100点満点中98点を獲得(歴代最高点)
・モデストに比べると暴れん坊
③ビール(バドワイザー)から作ったジン
・ビールを2日かけて蒸留
・2種類のホップとブナの木を使用
・ちょっとウイスキーっぽい色と味
・ハイボールにするとおいしい
④ニンジャ
・日本酒からつくったジン。ジャパニーズジンを目指した
・ミョウガの茎や摘果したスダチ、お茶の欠片を使用
・水で割るとミョウガの香りが開く
⑤カカオの皮を使ったジン
・ジン業界で空前のカカオブームになっている
・みんなカカオの実を使っているが、エシカル・スピリッツでは皮を使用
・皮の方が香りを取り出すのに有利
・ハイチュウのパイナップル味のような香りがする
⑥蒸留所をつくるときのクラウドファンディングでつくったジン
・全人類が好きなジンを目指した
・ミント、ショウガ、レモンなど7種類の原料
・日本のミシュラン3つ星シェフが気に入って使ってくれている
・原酒は粕取り焼酎
⑦生シイタケのようなジン
・遊びでつくった
・生シイタケを食べたときの味を再現したかった
●その他
・山口さんは東京農業大学・大学院で、味覚について研究していた
・各地の酒蔵を訪ね歩いている
・すごくおいしい粕取り焼酎をつくっている酒蔵もあるのに、いまいち認知されていない
→ 一般消費に回すだけでなく、原酒としての流通可能性も大きいのではないか
・日本人は料理に醸造酒をあわせる文化。日本人の趣向に合わせてジンをつくると、なじみやすくなる
そだてる【屋上 ハーブガーデン】
ジンづくりに使うため、屋上でハーブを育てていました。
屋上で太陽と風と緑に触れられるのが気持ちいい!
東京スカイツリーも眺めることができました。
”木のお酒”への期待
最後に、”木のお酒”への期待を話してくれました。
木から蒸留酒をつくるというのは未知の領域で、すごくワクワクしています。
森林総合研究所では、木からお酒をつくる技術に焦点を当てて研究していますが、酵母など発酵に関するいろんな要素を考えると、やりようはまだまだあるなと思っています。
それでも”木のお酒”は旨いので、可能性は未知数です。
8月に鹿山さんと一緒に森林総合研究所で2週間の研修を受けることになりましたので、そこでいろいろ勉強してきたいです!
森林総合研究所でつくったお酒は、スギ、シラカバ、サクラ、ヤマザクラ、ミズナラ、クロモジの6種類。
なかでも、ミズナラはウイスキーのような味、シラカバは桃のような味がするんだとか。
針葉樹と広葉樹の違いや部位による違いなど、これからの研究余地はまだまだ多そうです。
今度はぜひときがわ町の森をご案内したいと思います。
世界初の”木のお酒”プロジェクト、今後がますます楽しみです!
鹿山さん、山口さん、エシカル・スピリッツの皆さま、ありがとうございました!